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2009年3月13日 (金)

なぜ日本経済の悪化度合いは大きいのか

大和総研のコラムから

なぜ日本経済の悪化度合いは大きいのか

世界金融危機の直接の影響は、日本が先進国の中で一番小さいはずなに、実体経済は日本が一番悪化している。2009年10-12月期の実質GDPの対前期比年率は、アメリカがマイナス3.8%、ドイツがマイナス8.2%、フランスがマイナス4.6%、イギリスがマイナス5.9%であるのに対して、日本はマイナス12.7%である。この理由は、もちろん、12月の本欄「なぜ日本のショックは大きいのか」でも書いたように、日本の外需への依存度が高いことにある。ヨーロッパの中でも、輸出に依存しているドイツの落ち込みは相対的に大きい。やはり輸出依存の高い韓国の実質成長率も、マイナス20.8%と大きい。しかし、日本の落ち込みが大きい理由は、それだけだろうか。

危機以後、円は急速に上昇した。金融危機が認識されていなかった2007年前半の120 円から、現在の90円まで3割以上も上昇した。最近は、おそらく、日本の政治が見捨てられたことによって、円はわずかに下落しているが、それでも3割の上昇である。

内閣府経済社会総合研究所の計量経済モデルによると、10%の円高で2年目に0.54%実質GDPが減少する。30%の円高なら1.62%減少することになる。日本の実質GDPは09年度でマイナス3%減少するというのがエコノミストの相場観になっているが、円高がなければマイナス1.5%程度ですむことになる。これなら、世界標準の落ち込みである。

では、なぜ円高になっているのだろうか。為替レートとは、通貨と通貨の交換比率である。他国の通貨が増えて、自国の通貨が増えなければ円高になるのは当然である。通貨供給の元をなすマネタリーベースの増加率を見ると、アメリカが2倍以上に増えているのに、日本はほとんど増えていない。円高になるのは当然だ。不十分なマネタリーベースの供給が、日本の不況を悪化させている。

欧米金融業界の高報酬は“スーパーバブル”だったのか?

欧米では、経営に行き詰まり、政府の支援を受けた金融機関の経営陣が桁外れの報酬を受け取っていたことが物議を醸している。欧米金融界の高報酬ぶりは経営陣に限ったことではなく、雇用者の平均報酬も際立って高かったことは周知の事実であろう。

しかし、これは1980年代以降の現象である(ちなみに、オリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』の公開は1987年)。下のグラフはアメリカの金融業とその他の産業の一人当たり雇用者報酬の比率であるが、70年代までの金融業の雇用者報酬は他産業より10%強高い程度で、突出した高報酬ではなかった。それが、80年代に入ると突如として上昇を始め、2007年には約2倍に達している。この劇的なグラフは、80年代前半に金融業に生じた質的変化が高報酬の源泉であることを示唆している。その「源泉」だが、80年代前半という時期から、レーガン政権以降のアメリカで進められてきた規制緩和であろうと見当が付く。

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資産市場が活況を呈するほど、金融業界の収益は拡大する。そして、高レバレッジ(≒多額の借入)が可能になるほど、資産市場に流れ込むマネーは増大し、新たな参加者が引き寄せられる。そのため、金融業界には、「レバレッジを高めて資産取引を過熱させることで収益拡大」というインセンティブが働く。実際、80年代後半の日本のバブルの背景には銀行貸出の急増が、近年の世界的バブルの背景には金融工学を駆使したデリバティブ市場の急拡大があった。これで報酬が歩合給(成功報酬体系)なら、「本来なら住宅を購入できない低所得者にサブプライムローンを組ませれば、自分が大儲けできる」というような空気が金融業界に広がっても不思議ではない。規制がなければ、金融業界(人)がこのような誘惑に抗うことは難しいだろう。

最近、この仮説を裏付ける論文“Are bankers paid too much?” (by Thomas Philippon)が発表された(紹介記事がNYTThe Economistにある)。それによると、金融業の報酬は規制の強弱と関係しており、規制が緩い20年代と80年代以降は高く、厳しい30-70年代は低かった。近年の金融業の高報酬は、規制が過度に緩和されたことによる超過利潤だったという。(金融業の高報酬化が、その他の産業の経営陣に波及したことが、一般従業員との所得格差拡大の一因になったとも考えられる。)

金融業界が利益追求にのめり込んで投機ブームがおこると、最後はバブル崩壊に至り、金融システムだけでなく、経済活動そのものが機能不全に陥りかねない、というのが30年代の世界恐慌の教訓である。そのため、金融業界が投機的ビジネスにのめり込み過ぎないように、グラス=スティーガル法など様々な規制がかけられた。ところが、大恐慌の記憶が薄れてくると、恐慌防止のための規制が無意味で窮屈なものに見えてくる。そこで、金融業界が自由で創造的に活動できるようにと規制緩和が進められたのだが、その結果、80年前の繰り返しが懸念される事態となっている。

市場原理主義(market fundamentalism)に批判的な著名投資家のジョージ・ソロスは、現在の世界的金融危機を、「1980年代前半から続いたスーパーバブルの崩壊」と評しているが、市場原理主義とスーパーバブルの黄昏とともに、金融業界の「高報酬バブル」も崩壊する日が来たのだろうか。

中国の不動産不況のなかにみるリスクとチャンス

昨年12月に出版された「2008年の中国居民収入分配年度報告」では、金融資産の偏在に関する中国人民銀行の調査結果を掲載している。同調査によると、2007年3月末時点の都市住民一人当たり個人貯蓄残高の分布は、10万元(約153万円、当時のレートで換算)以下の家計が98.22%を占め、その個人貯蓄残高は全体の48.39%を占めていたという。逆算すれば、僅か1.78%の家計が個人貯蓄残高の51.61%を占める計算となり、金融資産の著しい偏在が、公式調査でも明らかにされた。

これは個人貯蓄に関する調査であるが、株式保有についても同様のことが言える可能性は高い。個人金融資産の内訳をみると、株価急騰を主因に証券資産のウエイトが2006年末の11.5%から2007年末には27.6%へと急拡大している。「資産効果」を背景に、2007年の高級住宅への需要はかつてないブームの様相を呈したのだが、その資金的裏付けのひとつとなっていた株価は、2007年10月をピークに急落。上海・深圳の流通株式時価総額は2008年の1年間で4兆7850億元(前年比51.4%減)の減少を記録し、これは同年の名目GDPの15.9%に相当する程であった。こうしたなか、2007年に前年比26.5%の急増を記録した全国住宅販売面積は、2008年には一転して20%縮小し、住宅価格指数(前年同月比)は、2008年1月の11.3%上昇をピークに伸びが減速、2008年12月、2009年1月には下落に転じた。資産の偏在を勘案すれば、昨年来の株価急落の逆資産効果は、富裕層を直撃しているとみられ、住宅でも、特に高級物件では調整が長期化する可能性は否定できない。

しかし、リスクの中にチャンスも見える。逆資産効果(資産効果も然り)が富裕層に集中して発現するのであれば、一般市民の資産の毀損は小さいはずであり、今回の不動産不況は、高嶺の花となった住宅を一般市民の手に取り戻す好機でもある。今回の景気対策では、住宅に関しては、勤め人が購入可能な住宅の供給や、頭金比率の引き下げ、住宅ローン金利の引き下げなど、一般住宅の需要を喚起する方策が相次いで実施されている。これまで蚊帳の外に置かれていた中間層以下の需要を掘り起こそうとの政策であり、民生改善のみならず、住宅需要の下支えとしても一定の合理性を持つと評価できよう。折りしも本コラムが掲載される3月5日は、今年1年の施政方針である温家宝首相の「政府活動報告」が示される全人代の開幕日である。不動産不況への対応策にも注目したい。

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