「アメリカが景気回復すると、世界経済危機が終わらない」という深刻なジレンマ
リストラについて投資家が心配すること
金融危機の実物経済への影響が明確になり、企業も雇用調整に動き出した。従業員にとっては避けたい事態だが、株主にとっては基本的に「よいニュース」だ。ただし、今回のリストラには投資家から見ても心配な点がある。
「日本経済新聞」(12月14日付朝刊)の報道によると、トヨタ自動車は中国、ブラジル、インドなどを含む新工場計画を見直すという。新興国の経済も減速が避けられないので、適切な判断かもしれないが、次の成長の可能性がある分野までリストラしてしまうことにならないか心配だ。
人口の減る国(日本)の内需には限界がある。自動車に限らず多くの産業で、長期的に見て、需要の成長は新興国に求めるほかないのではないか。
社員も投資家も、人員削減計画だけでは希望を持てない。労働意欲や株式の魅力の点でも、リストラ発表と相前後して成長への具体的展望を示すのが経営者の役割だ。
ソニーも同様で、収益を牽引した薄型テレビの需要見通しなどが下方修正されることはわかるが、次のソニーらしい成長分野がメッセージとして伝わってこないのは残念だ。
「ダイヤモンド・オンライン」(12月12日付)のカルロス・ゴーン・日産自動車社長へのインタビューを見ると、彼が「環境対応」を次の重点分野と考えていることはわかるのだが、日産にとっても「低コストのファイナンス」が難しい状況であるように読める。
それだけ業界全体、経済全体の状況が大変だということなのだろうが、余裕とやる気のある企業にとっては、不況期はライバルに差をつけるチャンスでもある。
投資家の側でも、リストラによるコスト削減効果ばかりを評価するのではなく、将来の成長に向けた前向きな挑戦の可能性を見落とさないように注意したい。
「アメリカが景気回復すると、世界経済危機が終わらない」という深刻なジレンマ
将来への方向付けが
定まらない
日本の立場から見て最も強い関心が持たれるのは、アメリカの輸入が今後どのように推移するかである。
国際収支統計によってアメリカの輸入の総額と地域別の推移を見ると、【表2】に示すとおりである。日本からの輸入は、2008年第1四半期をピークとして急激に落ち込んでいる。これは、自動車を中心とするものである。そしてこれは、すでに見たGDP統計における耐久消費財の落ち込みに対応したものだ。
しかし、その他の地域からの輸入は、日本に対する影響ほど顕著な動向は示していない。中国からの輸入は、08年第1四半期には落ち込んだが、その後回復しており、08年第3四半期では、過去最高値となっている。OPECからの輸入も、原油価格が下落した08年第3四半期でも、低下せずに増加している。輸入額全体で見ても、減少するどころか、むしろ増加している。
【表1】アメリカの実質GDPとその構成要素の推移(年率換算額、単位:10億ドル)
| 【表2】アメリカの地域別輸入の推移(単位:100万ドル) |
つまり、これまでのところ、アメリカの貿易は、自動車輸入の急減を通じて対日貿易に大きな影響が発生しただけで、輸入全般には目立った変化は現れていないのである。これは、上でGDP統計によって見たのと同様の傾向である。
このことは、問題なしとしない。なぜなら、今回の経済危機の基本的な原因は、アメリカの経常収支赤字が持続可能とは言えない規模まで拡大したことにあるからだ。そして、それをもたらした原因は、アメリカ国内の消費が住宅価格上昇を背景として増加したことにあるからである。
したがって、危機が完全に解決されたと言えるためには、アメリカ国内の過剰消費が減少して経常収支赤字が持続可能なレベルにまで減少しなければならないと考えられる。しかし、これまでのところ、自動車を中心とする耐久消費財について減少は見られるものの、消費の縮小による輸入の縮小には進んでいない。
つまり問題の根本的な解決と新しい均衡へ向かっての調整の道筋が見えているとは言いがたい状況なのである。
今後、オバマ政権によって景気刺激策が取られ、アメリカ国内の支出が増大すれば、輸入が再び増加する可能性もある。そうなれば、問題の基本的な解決からはかえって遠ざかってしまうとも言えるのである。
年明け以降の日本の株価は上昇傾向にあるが、それはオバマ政権による景気刺激策への期待によるものだと言われる。たしかに、アメリカの景気が上向けば、日本の輸出の急減には歯止めがかかるかもしれない。しかし、それは今回の危機の原因になったアメリカ経常収支赤字問題が未解決のまま放置されることを意味するのだ。それは、ドルに対する信頼が確立されず、ドル安に対する不安が残ったままの状態が継続することを意味する。
かくして、将来への展望が開けない状態が続くことになる。少なくともしばらくの間は、このように方向付けがはっきりしない状態を甘受せざるをえないのだろう。
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